ファンブルグ寄席 第７席

お花見にちなんだ噺をもうひとつ、お付き合いいただきましょう。

お花見といえば、




お酒は付き物ですね。

普段ぼ～っとなすってる方でも、お酒の話になるとぴ～～んとこう抜ける感じになるというのが酒呑みというものだそうで・・・


まあ、そうはいっても大概失敗するのも、お酒にまつわってなんですけどねぇ。

 

例によって、ちょっとお間抜けな二人。







そろそろ中庭の桜が満開という評判なので、

「ひとつ花見に繰り出そうじゃねえか」

と、話がまとまりましたが、あいにく二人とも金がありません。

 

そこで兄貴分がちょいとオツなことを考えました。

 

馴染みの酒屋に灘の生一本を三升借り込んで、花見の場所に行ってコップ一杯１００Gで売る。

 

酒のみは、酒がなくなるとすぐに呑みたくなるものですんで、みんな花見で盛り上がっているところに酒を売りに行けば必ず売れる。

もうけた金で改めて一杯やろうという、何のことはない「転売の利ざや稼ぎ」です。

 

そうと決まれば桜の散らないうちにと、二人は中庭までやって来ました。

 

着いてみると、案の定花見客で大にぎわいです。

 

さあ商売だ、という矢先、弟分は風下だから、酒の匂いがプーンと漂ってきて、もうたまりません。

それでも、商売物なのでタダでもらうわけにはいかないと思い、

「兄貴、オイラに一杯売ってくれ」












「おうよ、１００Gよこしな・・・」

弟分は兄貴に１００G払ってコップ酒を受け取ると、旨そうにゴクンゴクンと飲み乾します。

 

それを見ていた兄貴分

「う、うまそうじゃあねぇか・・俺もいっぱい、ほいよ１００Ｇだ」








と手に持ってた１００Gを弟分に渡してグググっと・・・。

弟分は、旨そうに呑む兄貴を見て、

「うっ、オイラももう一杯、ほい兄貴１００G・・・」

「じゃまた俺も、ほら１００Ｇ」、

「それ一杯くんな、１０Ｇ・・・」












「もう一杯、はいよ１０Ｇ・・・」

とやっているうちに、

三升のお酒はきれいさっぱりなくなってしまいました。

 

二人はもうグデングデンに酔っ払っています。

 

「感心だねえ。このごった返している中を酒を売りにくるとは。けど、二人ともなんで、こんなに酔っぱらってるの？」

「なーに、このくらいいい酒だというデモンストレーションを見せているのさ」

 

なにしろ、物見高い人が集まってますから、自然とお客が寄ってきます。

 

ところが、肝心のお酒が、すっからかんで空っぽです。

 

「いけねえ兄貴、酒は全部売り切れちまった」

「えー、お気の毒さま。またどうぞ」

 

またどうぞも何もあったもんじゃございません。

 

お客はすっかりあきれて帰ってしまいましたが、まだ酔っぱらっている二人は、売り上げの勘定をしようと、財布をあけてみます。

ですが、財布にはたったの１００Ｇしか入っていません。

 

「兄貴、おかしいなぁ・・・酒は三升売れちまったのに、売り上げが１００Gしかねえよ？」　

 

「馬鹿野郎、考えてみれば当たり前だ。

あすこでてめえが一杯買って、オレが１００Ｇもらったが、そのあと、オレが一杯買っててめぇに１００Ｇ払ってんだ・・・。１００Ｇが行ったり来たりしているうちに、三升の酒をみんな二人で呑んじまったんだあ・・・」

「あ、そうか。そいつぁムダがねえや」










「花見酒」の一席でした。